【ぷらっとコラム010】職場でのギバーの落とし穴と自己犠牲型からの脱却法

職場でのギバーの落とし穴と自己犠牲型からの脱却法

「与える人」が成功するための心理学的ヒント

人間関係の3つのスタイル

私たちは職場で日々、人とのやり取りを繰り返しています。その中で「自分は与えるタイプか?奪うタイプか?」というスタイルの違いが、キャリアの成否に大きな影響を与えることが心理学や組織行動学の研究からわかってきました。

組織心理学者アダム・グラントは、人間関係を大きく次の3つに分類しています。

1.テイカー(Taker)

テイカーは「自分の利益を最大化すること」を優先する人です。

  • 他人からできるだけ多くを得ようとする
  • 手柄を独り占めする傾向がある
  • 他者のサポートには消極的

短期的には目立つ成果を上げることもありますが、周囲からの信頼を失いやすく、長期的には孤立しやすいのが特徴です。

2.マッチャー(Matcher)

マッチャーは「ギブ・アンド・テイクのバランス」を大切にします。

  • 「貸し借りの帳尻を合わせる」意識が強い
  • フェアであることを重視する
  • 与えたら、その分返してほしいと考える

職場で最も多いのがこのタイプといわれます。人間関係の安定はありますが、大きな飛躍や信頼の蓄積にはつながりにくい面もあります。

3.ギバー(Giver)

ギバーは「自分の利益よりも他人への貢献」を優先します。

  • 部下や同僚の成長を支援する
  • 自分の時間を割いても助ける
  • 周囲の成功を喜べる

長期的には信頼を集め、最も成功するタイプになり得ます。しかし一方で、最も疲弊しやすく、損をしてしまう人もギバーなのです。

では、この「ギバー」が職場でどのような落とし穴に陥りやすいのか。そしてどうすれば“自己犠牲型”から抜け出し、健康的に与え続けられるのかを見ていきましょう。

自己犠牲型ギバーとは

職場での自己犠牲型ギバーには、次のような特徴が見られます。

  • 頼まれると断れない
  • 他人の仕事を抱え込み、残業が増える
  • 自分の成果よりも周囲のサポートを優先する
  • 感謝されないと心が満たされない
  • 「役に立たなければ自分の価値はない」と思い込みやすい

このタイプは周囲からは「優しい人」「面倒見が良い人」と評価される反面、最終的には燃え尽きたり、自分のキャリアを犠牲にしてしまう危険性があります。

職場で起こりがちな「自己犠牲型ギバー」のシナリオ

ケース1:頼まれごとの山に埋もれる

同僚「この資料、ちょっと手伝ってくれない?」
ギバー「もちろん!やっておくよ」

こうしたやり取りを繰り返すうちに、自分の業務が後回しになり、納期に追われて疲弊してしまう。

ケース2:部下に過度に肩入れする

部下の失敗をカバーしすぎて、自分が残業や責任を背負ってしまう。結果的に部下の成長の機会も奪ってしまう。

ケース3:成果を譲ってしまう

プロジェクトの成功を「みんなのおかげです」と周囲に譲り、自分の評価につながらない。キャリア上の昇進や報酬で不利になることも。

自己犠牲型ギバーが陥る心理的背景

  • 承認欲求:感謝や評価がないと自分の価値を感じられない
  • 嫌われ恐怖:断ることで関係が壊れるのが怖い
  • 過去の学習:「我慢して尽くすことが正しい」という価値観を内面化している

心理学的には、他者承認依存過剰適応の傾向が強く見られます。

健全なギバーになるためのマインドセット

1.「自分を大切にすることはわがままではない」

セルフケアは自己中心的な行為ではなく、長期的に貢献するための基盤です。

2.「ギブにも種類がある」

  • 自己犠牲型ギバー:自分を犠牲にしてまで与える
  • 他者貢献型ギバー:自分の利益も守りつつ与える

「ギバーをやめる」のではなく「ギブの仕方を変える」ことが重要です。

3.「断ることも貢献」

断ることで、相手が自立して考える機会を得ることもあります。すべてを抱え込むことが必ずしも善ではありません。

実践ステップ:自己犠牲型ギバーをやめる方法

ステップ1:境界線(バウンダリー)を引く

自分の責任と相手の責任を明確に分ける。

  • 「これは私の役割」
  • 「これは相手の課題」

境界線を意識するだけで、抱え込みすぎを防げます。

ステップ2:小さなノーを言う練習

いきなり大きな頼みを断るのは難しいため、まずは「今はできないけれど、明日なら手伝える」といった限定的な断り方を実践します。

ステップ3:戦略的に与える

  • 信頼関係を深めたい相手
  • 将来の協働につながる相手
  • 自分のリソースに見合った範囲

にギブを集中させる。誰にでも与えるのではなく、優先順位をつけることがポイントです。

ステップ4:自己承認を増やす

「ありがとう」と言われなくても、自分の行動を自分で認める。

  • 今日助けたことを日記に書く
  • 「自分は貢献した」と声に出して確認する

外部承認から自己承認へのシフトが、消耗を防ぎます。

ステップ5:成果を可視化する

「自分の成果をきちんと主張する」ことも健全なギバーに必要です。報告や評価面談で自分の貢献を適切に伝えることは、自己犠牲を防ぎ、キャリアの持続性を高めます。

職場におけるメリットと変化

自己犠牲型をやめ、健全なギバーになれると―

  • 過労や燃え尽きから解放される
  • 本当に大切な人や仕事に集中できる
  • 周囲からの信頼は維持しつつ、キャリア評価も得られる
  • 部下や同僚の自立を促し、組織全体の力が高まる

つまり、組織にとっても本人にとってもプラスの循環が生まれます。

まとめ:持続可能なギブを選ぶ

職場での「与える人」は、組織に不可欠な存在です。しかし自己犠牲に陥れば、自分も組織も疲弊させてしまいます。

  • テイカー、マッチャー、ギバーの違いを理解する
  • 自己犠牲型から他者貢献型へシフトする
  • 「境界線を持つ」「断る勇気」「自己承認」を実践する

これらを意識することで、ギバーは最も成功するタイプになれるのです。

あなたの「与える力」を長く続けるために――今日から、小さなノーと自分へのイエスを始めてみませんか?